【弁護士監修】企業の義務!パワハラ・セクハラ対策とは?パワハラ防止法等、厚労省が定める10+1の措置義務とは?
2019年5月に改正労働施策総合推進法が成立し、2020年6月から大企業では、パワハラに対する対策(措置義務)が義務付けられました(中小企業では2022年4月から)。
そこで、本記事では、会社/事業者が負う義務について解説するとともに、具体的なアクションプランベース(より詳細な情報は下記バナーからチェックリストをDLしてください。)で事業者は何をすればいいのかを解説します。
企業が負う義務とは?何をすればいい?10+1の措置義務
上述の改正労働施策総合推進法により、企業/事業者に、パワハラ防止のための雇用管理上の措置義務(対応が必要な事項)が定められました。
これは、厚労省の資料等にまとめられており、全部で10の措置を講ずる必要があります。また、マタハラ等に対応したものも含めれば、11の事項に対応する必要があります。
これをわかりやすくまとめたものが次の10+1の措置事項です。
(⑪職場におけるマタニティ・ハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための業務体制の整備など、妊娠等した労働者等の実情に応じた必要な措置)
いかがでしょうか?
御社は、全て対応できていますでしょうか?
ちなみに、この点は間違って理解しているご担当者が多いので、補足しておくと、パワハラに対しての措置義務は、2020年現在大企業のみが負うものですが、セクハラについての防止策強化は企業規模を問わず施行されているため、中小企業も、セクハラについて上記10+1の措置義務を負っています。従って、実質、全ての企業が、上記10+1の措置義務を負っているといっても過言ではありません。
企業のリスクは?ハラスメント問題が、もしも発生してしまったら?
万が一、ハラスメントが発生した場合、企業にはどのようなリスクがあるのでしょうか?
パワハラ・セクハラをした社員当人がリスクを負うのは当然と言えますが、そのような社員がいた場合、企業/事業者にも大きなリスクがあることを認識しておくことが必要です。
そこで、考えうる企業の法的リスクの一例を列挙すると、
不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)
使用者責任に基づく損害賠償責任(民法715条)
安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任(民法415条)
役員等の第三者に対する賠償責任(会社法429条)
代表取締役の行為についての賠償責任(会社法350条)
使用者責任に基づく損害賠償責任(民法715条)
などがあげられます。
実例として企業の責任追及を認めた著名な判例があるので、概略を紹介させていただきます。
一つ目は、従業員約80名の青果企業の判例です。(名古屋高判平成29年11月30日)
端的に言えば、先輩従業員による若手授業員に対する行き過ぎた注意・叱責により、これを受けた若手従業員がうつ状態となり、自殺に至ってしまったという事例です。
この事例では、会社が先輩従業員による注意・叱責を制止ないし改善を求めず放置したことや、若手従業員の業務内容や業務分配の見直しを検討しなかったことなどに対し、高裁は、会社固有の責任(不法行為責任・債務不履行責任)を認め、会社に対して約5600万円の損害賠償責任(自殺による逸失利益を含む)を認めました。
二つ目は、全国規模の大手銀行において上司から強い口調で叱責され、異動希望を出していた部下Xが、異動がかなわないまま自殺してしまった事案です。
裁判所は、Xが日常的に厳しい叱責を受け続けていたことを上司が認識していたこと、Xが赴任後数ヶ月で異動を希望していたこと、Xの体重が赴任後の2年間で約15kgも減少したこと、他の従業員からXが死にたがっていることを知らされていたことなどから、「(会社は)Xの体調不良や自殺願望の原因が上司との人間関係にあったことを容易に想像できたものといえる。」「Xの心身に過度の負担が生じないように、同人の異動を含めその対応を検討をすべきであったといえる。」「ところが、一時期Xの担当業務を軽減したのみで、その他にはなんらの対応もしなかったのであるから、会社には、Xに対する安全配慮義務違反があったというべきである」と判じ、会社/事業主に対して約6100万円の損害賠償義務を負うと判事ました。(徳島地判平成30年7月9日)
併せて認識しておきたい、パワハラ等による「生産性低下リスク」、「優秀人材流出リスク」
パワハラが発生した場合、企業が負うリスクは、損害賠償リスクだけではありません。
厚労省が委託調査したアンケート(「平成 28 年度 厚生労働省委託事業 職場のパワーハラスメントに関する 実態調査報告書」)では、
パワハラは企業にどんな損失をもたらすと思いますか?
・従業員が十分に能力を発揮できなくなる・・・・81.0%
・人材が流出してしまう・・・・・・・・・・・・78.9%
・職場の生産性が低下する・・・・・・・・・・・67.8%
このように、パワハラによって従業員が十分な能力を発揮できなくなり、生産性が低下すること、折角、多額の費用をかけて採用・教育した優秀な人材が流出してしまうということがわかっています。
さらに、ケースによっては、厚生労働大臣の行政指導および企業名公表※の対象となりますので、デジタルタトゥ―として、その記録は永く残ってしまいます。こうなると、採用には甚大な影響があることは、明らかです。
(※企業名公表:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律 第30条等)
会社/事業者は、パワハラやセクハラが発生してしまったら、どうしようもないのか?
上記で、主にパワハラにフォーカスして、判例をご紹介しましたが、会社/事業者は、ハラスメントが発生してしまうと必ず責任を負うのでしょうか?また、どのように対応すれば、いいのでしょうか?
答えとしては、その状況に応じて、先にご紹介した10+1の措置義務に沿った形で対応することが必要であると言えます。
例えば、ハラスメントが発覚した際に、当該ハラスメントをした社員を懲戒処分したことについて会社が逆に訴えられてしまったものの、裁判所は、その請求を棄却したという判例があります。会社がパワハラに気づくきっかけとしてアンケートの有用性がわかること、並びにパワハラ発覚後の会社側の対応がとても参考になる事例ですので、少し長くなりますが、丁寧にご紹介します。
この事例では、上司ら(2名)が部下7名に対して長期間に渡りパワハラを行っていました。会社は相談窓口を設置していましたが、部下7名からは特に申告がありませんでした。一方、あるときに会社がコンプライアンスアンケートを実施したところ、半数以上の従業員から職場のコンプライアンス上の問題、職場環境の問題、従業員のモチベーションの低下、パワハラのここ2年間の急激な悪化の指摘があり、会社がこの結果を受けてさらに事情聴取を進めたところ、パワハラが発覚したという事例です。
上司は、「12月末までに2000万円手数料を稼がないと、会社を辞めると一筆書け」「(被害者の1人の子どもの年齢が10歳であることを確認し)おまえの成績表を見せたらもうわかるだろう、お前がいかに駄目な親父かわかるだろう」など数々のパワハラ発言を繰り返していました。
上述のとおり、アンケートによりパワハラが発覚した後、会社は、管理職を集めて意見等を聴取し、周囲のパワハラを見聞きした社員からも事情を聴取しました。
その結果、社内でパワハラがあったと判断した会社は、就業規則所定の手続に従い賞罰委員会を開き、上司に弁明の機会を与えたうえで、懲戒処分として降格処分等を行いました。
これに対し、上司は、懲戒処分としての降格処分が違法・無効であるとして提訴しました。
結果、裁判所は、上司からの請求を棄却し、こう述べています。「長期間にわたり継続的に行ったパワハラである。成果の挙がらない従業員らに対して、適切な教育的指導を施すのではなく、単にその結果をもって従業員らの能力等を否定し、それどころか、退職を強要しこれを執拗に迫ったものであって、極めて悪質である。」「会社は、パワハラについての指導啓発を継続して行い、ハラスメントのない職場作りが会社の経営上の指針であることも明確にしていたところ、原告は幹部としての地位、職責を忘れ、かえって、相反する言動を取り続けたものであるから、降格処分を受けることはいわば当然のことであり、本件処分は相当である。」
この事例のように、通常から適切に対処をしていれば、たとえ、ハラスメントをした当事者から逆恨みを買い処分無効・違法として提訴されたとしても、会社のリスクは、最低限に抑えることができるのです。
パワハラ・セクハラを予防・早期解決するには?厚労省が定める事業者の措置義務に沿った対応方法
先ほど、会社/事業者が負う措置義務(対応が必要な事項)をご紹介いたしましたが、10+1の内容だけでは、実際に、何をすればいいのかが分かり辛いと思います。
そこで、弊社では、厚労省資料を元に、具体的なアクションプランまで落とし込んだチェックリスト(弁護士監修済み)を作成いたしました。
無料で、DLできますので、是非、ご活用ください。本資料が、ハラスメントの予防・早期解決に少しでも寄与できれば幸いです。